老和尚の悩み
情報提供者:元歎サン


 河東解県に、まっすぐ南海に通じている大きな湖があった。
 この湖のほとりに一宇の寺があった。往時の老和尚は無類の碁好きで、今まで負けた事とてなかった。
 ある日、この寺に大丈夫が現われ、老和尚と碁を打ち始めた。二人はまさに格好の相手で、朝日が昇る頃より始め、夕日が沈む時間になっても勝敗がつかない。つぎの日も打ち続けたが、やはり決着がつかない。こうして一ヵ月が過ぎた。
 ある日、老和尚は心が碁盤のうえに向かないらしく、いくらも打たないうちに男が勝ってしまった。男は訝しく思い、訳を尋ねた。老和尚がため息混じりに話すには、
「この一帯、もう二ヵ月も雨を見ておりませぬ。百姓衆は青息吐息、愚僧も気が気でなく、打つ手が乱れた次第。まことに気のもめる事でございます」
 男もため息をついて、
「お笑いくだされ。かくなる上は真実をお話せねばなりますまい。実は私、南海の龍王なのですが、玉帝がこの地に雨を降らす事をお許しにならず、欝々と気が滅入りますので、こちらにお邪魔して碁を打ち、気晴らしをしていたという次第なのです」
 老和尚はこれを聞くと、あわててひざまづいて伏し拝み、恵の雨を降らせてくだされば、皆もどれほど喜びますことか、と嘆願した。が、龍王は承知しない。
「玉帝の命に背き雨を降らせれば、天命を犯した罪で斬首になります」
 なおも老和尚は頭を地面にすりつけて一心に頼む。龍王は言った。
「では、こういたしましょう。あなたの望みはかなえましょう。ですが、わたしが斬首になりましたら、湖に赤い水が吹き出しますから、桶に汲んで置いてください」
 果たして次の日、地面にたっぷりとしみ込むような大雨が降った。雨が止むやいなや、龍王の言葉どおり湖面に赤い水が湧き上がり、老和尚の用意した木桶に流れ込んだ。この赤い水置く事九九日、突然この桶から血色のよい子供が跳び出した。この子こそ、後の関羽であった。


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