諸葛亮と司馬懿
諸葛亮と司馬懿は若い頃、同門であり、共に学んだ。
彼らの師の手元には一冊の奇書があった。それには天文・地理・用兵・治国のあらゆる秘策が書かれていた。師はその奇書を諸葛亮か司馬懿かいずれかに伝えたいと考えていた。そこでこの二人を観察した結果、才能には差がないが、その品徳や志向からみて諸葛亮にしようと心が傾いていた。
月日がたち、やがて師は病に倒れた。諸葛亮も司馬懿も彼のために心を込めて看病したが老いた師の病状は一向に良くなる事はなかった。
そんなある日、諸葛亮が薬草を採りに外に出た後に、司馬懿は師が昏睡しているのを確認すると、そっと書斎に忍び込み奇書の入っている箱を探し出すと箱を抱えて逃げ出したのである。
しばらくして諸葛亮が薬草採りからかえってくると、師は昏睡から目覚めていて、諸葛亮に自分の身体を起こさせると、床の下から隠していた本物の奇書を取り出して諸葛亮に授けた。そして
「私の死後、君は庵ごと私の身体を焼き、大急ぎで遠くへ去るのだ」
と命じ、すぐに息を引き取った。諸葛亮はその命を奉じ、奇書を持って南陽に帰りそれを学んだ。
一方、司馬懿が家に帰って奇書を開くとそれが偽者であることを知った。ただちに人をやって師と諸葛亮を殺してでも本物の奇書を奪ってくるようにと命じたが、その者が師の家に来てみると庵の影すらなくなっていたのである。