一、名前について

講師:曹操・夏侯淵


「何が良いかのぉ…?」

「これは丞相。何をお悩みで?」

「おぉ!妙才か?これは良い所に来てくれた。来月生まれるわしの息子に何と言う名前を付けようかと悩んでおったところじゃ。何か良い案はないか?

「(また子供が出来たのか…)
そ・それはおめでとうございますな。
しかし、名前の付け方なら、丞相はもうベテラン。何も悩む必要はありますまい」

「いや、それが今回は三国志博物館の初心者の民共にも、名前について学んでもらう為に、簡単には付けられんのじゃよ」

「なるほど。しかしそれは良い機会。私にも是非ご教授下され」

「ふむ。さすが淵は向上心の塊じゃの。同じ夏侯でも、片目とは大違いじゃ。
ガハハハ…」

「(それはコメントしにくい…)
では初歩的な質問からさせてもらいます。
名前は姓・名・字とに分かれておりますが、それぞれどういう使い方をされてるのか?
日本の民にはそこから教えた方が良さそうですね」

「そうじゃの。(こやつ、美味しいところを持っていくつもりか?)
先ず姓と名は日本人にも馴染み深いだろうから、説明する事もないだろう。
問題は『字』の存在。実は字と言うのは…」

「元服する時に祖父や父、あるいは自分でつけたりするものですよね?」

「……そうだな。
中国では名で人を呼ぶのはあまり好ましくないんじゃ。
この辺は特に小説などの影響で勘違いしやすいとこだが…」

「つまり『呂布奉先』と呼ぶ事はまず有り得ない。
一般的には姓+字で『呂奉先』と呼ぶのが普通だと言う事ですね?」

「……そういう事だ。(他の人物で例えれば良いものを…)
名は大切なものという考え方だが、これを日本人に理解させるはちと難しいからのぉ。
名を呼ぶのは大抵、親か主君くらいじゃ。
そう言えば、悪口を言う時や処刑時に名も姓も字も全部で呼ぶ事もあるのぉ」

「(そういう機会はこの人が多そうだな)
なるほど。確かに皇帝と同じ名の者など、それが原因で改名させられるくらいですからね。
では我々の様な家臣が主君や上司を呼ぶ時の説明を次にどうぞ」

「(なぜコイツが仕切っておるのじゃ?)
わしもちょうどそう思っていた所じゃ。
大抵、家臣が上司を呼ぶ時は…」

「私が最初に呼んだように、役職で呼ぶことが当たり前ですよね?」

「(なんだ?ノリツッコミか?)
そうじゃな。ちなみに後の世の人間が、わしを呼ぶ時は…」

「謚号で「魏武帝」と呼ぶとかなりの通だと思われますね」

「……ま・そういう事だな」

「呼び方はそこら辺で良しとして…では字に意味はあるのか?という点ですが…」

「(やはり仕切りたいのか?)
そう!そこが一番難しくて、大事なとこじゃな。
字には意味がある。最もポピュラーな所では兄弟の順番を示す漢字を最初の一文字に持ってくるというパターン。
孟・玄・伯・仲・叔・季・幼…と続くパターンじゃな。
この字の付け方をしてる人物なら、何番目の兄弟か、分かる事が出来るの。
例えば…」

「丞相(孟徳)は長男ですよね。って事は馬孟輝なども長男か…。
…待てよ…。あの『馬氏の五常』も歴史に残されているのは、馬良と馬謖だけだが、他の者の字も推測できると言う事か?

「……まぁ一番分かり易いのは司馬懿の兄弟の字じゃな。『司馬八達』なんて呼ばれておるが、奴らの字は上から順に…」

「伯達・仲達・叔達・季達・顕達・恵達・雅達・幼達ですね。司馬仲達は次男でしたか。現在の日本人に最も分かり易いのは、一郎・二郎・三郎…こんな感じだと考えれば良い訳ですね」

「妙才…それは今わしが説明しようとして…」

「字についてはまだまだ法則性がありそうですが、この辺りにして…丞相、では幼名について、少し教えてもらいますか?」

「(お?ようやくわしの出番か?)うむ。幼名はあまり伝わってないから、存在を知らない者も多いからのぉ」

「はい。有名なのは蜀の馬鹿息子・劉禅の幼名『阿斗』ですよね。そういえば丞相の幼名『阿瞞』も後世に伝わってるようですね。
大人になって字がつくまでの呼び名と言う考え方で構いませんよね」

「妙才…このコーナーに私は必要なのか…」

「じょ・丞相…何を仰いますか?…そ・そうだ!『諡号(しごう)』は『諡(おくりな』についての説明はどうですか?
私などのような一兵卒では到底判りかねますが…(これでごまかせるか?)

「お〜そうじゃの!
諡号とは死後に贈られる尊称じゃ。もちろん自分でつけるものではない。
どうやら西周の初期に始められたと考えられておるが、一般には皇帝や功臣などに贈られ、例えるなら…」

「丞相は『武帝』、曹丕様は『文帝』…元譲なら『忠侯』、私は『愍侯』ですね。では皆さん、またの機会に!(逃走)」

「誰じゃ!あの様な者に諡したのは!!
……コホン。え〜ちなみに諡号にも法則性があり、文・武・昭・景・明・桓・貞・恵などが優れた皇帝に、懐・悼・哀・閔・殤がそれなりの皇帝に。そして、悪名の高い皇帝には暴・昏・煬・獅ネどが諡されるのじゃ。
どうじゃ?名前に関して勉強になったかの?
ちなみに廟号と呼ばれるものもあるが、これは廟に祀られたときの号の事で、高祖・太祖・世祖・太宗…などと呼ばれるものがそれじゃな。
ん?…わしは何か考え事をしていたような気がするのだが…何だったかの…?
まぁよい。そろそろ子供も産まれる頃だし、たまには家庭サービスでもするかのぉ。
では民よ。また会おうぞ!」


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